暮れのしつらえ
WINTER COLUMN.3
コンティニュエがお届けする冬のコラム。
コンティニュエにゆかりのあるクリエイター3名の方に大人の冬をテーマに、書き下ろしてもらいました。
今回は「POST」ストアマネージャーの錦 多希子さん。
丁寧な暮れの過ごし方と人柄を感じられるコラム。休息のお供にご覧ください。
小さい頃からの習慣が今もなお残り、毎年近しい友人たちやお世話になったひとたちには年賀状を書いて送っています。年の初めのごあいさつ。手紙好きなわたしにとってこれは、大切なひとへメッセージを届ける絶好のチャンスなのです。日頃からよく顔をあわせる相手には、普段伝えられないことを。各々の場所で自分なりの暮らしに邁進する旧友たちには、心をぐっと近くに寄せて精一杯のエールを。封をしないハガキだからこそ、オープンな気持ちを手書きのことばに込めて贈ります。
せっかくならば受け取った側がつい頬をゆるめてしまうようなお便りにしたい。この想いを形にするため、ここ近年は自らシチュエーションを決めて撮影した写真を用いています。寒風にも負けず凛と咲き誇る白い寒椿。青空に向かって高く掲げた犬張子のにぎにぎ。いつかは紅白のだるまを撮ろうと思い立ち、それを入手すべく浅草の仲見世に足を伸ばしたこともありました。その年によってテーマはそれぞれですが、イメージを具現化するためにアイディアを練ったり、準備に奔走することもまた、年の瀬の楽しみのひとつになりました。
年賀状がわたしにとってなじみのある風物詩だとしたら、大人になってから親しみ深くなった風習のひとつには、お正月飾りが思い浮かびます。年末に近づくにつれ、「今回はどんなお飾りで歳神さまをお出迎えしよう?」とあれこれ思案する。そんな冬らしいひとときが、今やかけがえのないものとして根付いています。目に見えない存在を尊ぶ気持ちは、ささやかでありながらも大きな拠りどころになってくれているように感じ、時に心強く思うほどです。
そもそもの始まりは3年ほど前、とある民藝店で毎年12月に行っているしめ飾り展に遡ります。かねてより案内状を送っていただいていましたが、職人さんたちのたゆまぬ手仕事でつくられたいかにも精悍そうな空気感が目に飛び込んできたこのときばかりは、いつも以上に胸が高鳴りました。
いざ会場を訪れると、そこには師走の多忙の合間を縫って多くの方が駆けつけていました。ねじり上げたしめ縄に「笑門」の門符を取り付けたもの、縄や稲穂で作った鶴や亀といった縁起物を添えたもの…日本各地でつくられた多種多様なお正月飾りが、ひしめくようにして並びます。じっくりと吟味し、結局しめ縄を輪っかにしたところに稲穂を垂らしたものに決めました。数多あるなかから「これぞ!」という逸品を探し当てるそのひとときには、まるで宝探しのような高揚感があったことをよく憶えています。
一昨年迎え入れたお飾りとの出逢いは、あるお花屋さんの受注会がきっかけでした。さすが植物を熟知しているだけに、凛として品のあるたたずまいは見ているだけで惚れ惚れします。実は密かにお目当てにしていたお品があったのですが、訪問時にはすでに受付終了とのこと。みるみる落胆するようすを見かねた開催会場の店舗の方が、「直接お花屋さんにお伺いしてみてはどうでしょうか?」とアドバイスをくださいました。ダメで元々、まずはお問い合わせをしてみようと意を決して連絡したところ、なんと快くも我々の分の制作をお引き受けくださったのです。あらゆる方のご厚意の重なりで縁を結んでいただき、念願のお正月飾りを掲げることができました。
昨年は、初めての挑戦に臨みました。知人のお花屋さんが定期的に主催するワークショップでお正月飾りの回を開催するという募集を目にして、自ら制作してみようと心を決めたのです。
おなじみの松や赤い実、伝統的な水引のみならず、変わりダネだと流木に至るまで、色とりどりの素材が揃えられ、それらを思う存分使いながら制作を進めます。思い描く完成のイメージをもとに先生に相談し、どんな素材を使えばいいのかをアドバイスを請い、技術的なサポートを受けながら、めいめいが創意工夫に満ち溢れたお飾りを作り上げていきます。軸となる素材に目星をつけて、それを活かすような作品創りに勤む方が多数派を占めるなか、なかには遠方の実家へ帰省する際に持ち運べるよう、組み立て式の置き型飾りを考案するツワモノまでいらっしゃいました。当のわたしは、モミや小枝を使ってまあるいぼんぼりのような形にしました。料理や部屋のしつらえと同じように、手製のものには自然と愛着が湧くものですね。
早いもので、一年を締めくくる節目の時期が近づいてきました。皆さんも今年はひとつ、新しい年をともに迎えるために、ご自身なりにお正月飾りを選んでみてはどうでしょうか?