INTERVIEW|E5 eyevan – Hirotaka Nakagawa
「自分にとっても足りなかった分野のデザイン」
セレクトショップを運営する私たちが魅力を感じ、お客様に提案したいと考えるプロダクトには一つのわかりやすい基準が存在する。それは、プロダクトのクオリティはもちろん、何より大事なのは、作り手たちの思いに共感が出来るかどうか。EYEVANブランドの中でも中心的に取り扱いさせてもらっている〈EYEVAN 7285〉〈10 eyevan〉のデザイナーを務める中川浩孝氏の思いやアイデアにはいつも共感を感じる点が多い。今回は10月に発表されたばかりである新レーベル【E5 eyevan】について、デザイナー中川氏のパーソナルな部分から、その思考にフォーカスしてブランドの魅力に触れる。
Continuer(以下「C」)
まずは初めに私たちが感じていることを少しだけ。今回お話を伺うきっかけとなった【E5 eyevan(以下「E5」)】は、一見知らない方が見たらとても普通であり、あえてわかりやすい洒脱さを削ぎ落としたようなプロダクトになっていますよね。ただそこに新しい何かを感じるパワーを持っている。たぶんそれは時代感とマッチしている何かだとは思うのですが。
中川 浩孝さん(以下「中川」)
自分自身ではどちらかというとファッション的なコンテクストで俗に言う今っぽいという感覚にはとても疎いと思っています。例えば流行のひとつである太いフレームを掛けられるようになったのも最近ですし、ファッション的な流行にはゆっくり付いて歩いているようなイメージです。ただどちらかというと、「同時代感」といった、社会的なリテラシーの部分、価値観的な側面では素直に時代ともに並行して歩いているという実感を普通にもっています。そういったモノ(アイウェア)に対する考え方の部分が今っぽさを含み、皆様にも共感してもらえているのでしょうか。一方、ファッションの最前線で活躍されているようなクリエイターの方々にも展示会でたくさんのオーダーをいただきました。自分では今回そういったファッションの分野での反響を全く想像していなかったので驚きがあった一方、とても考え方的な部分に共感や賛同をしてもらえたのは嬉しかったです。
C:アイウェアの分野では、多くは見た目の部分で勝負することがどうしても多くなってしまいますが、価値観的な部分がより強調されているのが、このE5の魅力の一部ということですね。もちろん最大の魅力は、純粋に軽く掛けやすい、調整しやすい、壊れにくいなど、実際にかける事で何より実感する魅力だとは思いますが。振り返れば、中川さんが手掛ける〈EYEVAN 7285〉〈10 eyevan〉もアプローチは違えど、中川さんのパーソナルな部分を大いに感じます。3つものブランドをデザインされていますが、それぞれのブランドが出来て今感じている事はありますか?
中川:自分を少し客観視するような感覚で見た時に、何かに例えるなら脚本家の性質に近いのかな?とかを思います。それぞれの物語の主人公をバチっと決めて、各キャラクターの物語を進行させていく仕事のようなイメージです。ただ、単にシンプルに物事を分けて、それぞれを考えたいという性格なんだとも言えますが。もちろんアイウェアブランドなので機能的な事やディティールの部分は、それぞれがクロスオーバーしていると思いますが、どうしても自分は一緒くたに出来なくて。あとE5が出来た事で良かった点があります。この3つのブランドが揃う事で、それぞれ自分の中にある多様性に整理がつきました。ライフワークとして、自分が生涯デザインしていくカテゴリーが揃ったという感覚です。今の所はですが。この3つと1年間、順繰りに向き合っていけば飽きないなと。(笑) 今はとても楽しんでデザインワークが出来ています。
C:〈EYEVAN 7285〉と〈10 eyevan〉の側面だけでは、中川さんのパーソナルな部分を補いきれない何かがあったという感覚ですね。確かに人というものの一部を考えてみても、例えば父としての自分があったり、会社員としての自分、自分が考える自分がいたり。それらの要素が全て合わせって自分を形成しているということですしね。デザインの側面だけに絞れば、3つのブランドが中川さんにとってそれぞれ役割がある。格好良いだけの自分だけではないぞみたいな。(笑)
中川:そうですね。(笑) あとは自分がこれまでもデザインをしてきた中で、例えば好きなカテゴリーであるミリタリーウェアやワークウェアが作られた過程と、自分が行うデザインの過程は全く違うなと。必要な機能がデザインとなっていくように、そういったもの作りの分野で考えるべき割り切り方は出来ていないと考えていました。E5のような機能性に特化したカテゴリーだけが、デザインを始めてからずっと、ポッカリ穴が空いてしまっていたようでしたね。埋めなきゃいけない穴だという事はずっと思っていましたし、構想としては常に頭にあったのですが、人にとって、または自分にとって本当に必要な事か?などを考えると、その時はまだ行動を起こすまでの必要性を感じていなかった。
C:何がきっかけでそのジャンルでのもの作りが具現化したのでしょうか?
中川:そうこうしている間に世界中がコロナ禍に直面して、医療従事者の方がメガネをテープで補修しながら仕事されているのをテレビで見ました。それでスイッチが入り、自分に出来る事は何か、今は壊れにくいメガネが必要だと心のそこから思う事ができ、それがE5具現化のきっかけとなったのは確かです。僕が何より思うのは、やはり何を作るにしても自分自身の芯を食うような考えを表現したいというか、あまりプロモーション的な企画が先行しているものや、イージーな企画は絶対にやりたくないと思っています。本心と辻褄が合わないことは出来ないというか。プロダクトはもちろん、表に出る言葉としても嘘がないようにしています。あと受け取る側も本質的でないものは見抜きますし、成熟してきている分野が多い今の時代では小手先では通用しないですよね。あと少し脱線しますが、やりたくない事はやれない性格です。会社員時代に行きたくない営業先に行けと言われても行けなかった。(笑) 本当に環境に恵まれているとは思いますが。
C:間違いなく恵まれていると思います。(笑) あと抽象的な表現となってしまいすが、E5は「余白」がすごく残っているなと、実際に取扱いさせてもらって思いました。ひとつの価値観を表現したプロダクトを作り、後は掛け手がどう掛けこなすかというイメージ。そういった面白さがこのブランドにはすごくありますね。ファーストコレクションのLOOKも素敵でした。
中川:このブランドでは掛ける人に必要な機能、それ以降の領域には突っ込みたくないと思っています。今回、外部のクリエイターにお願いしたヴィジュアルも、まずはプロダクトだけ見てもらい、後は自由に解釈して撮影してもらいました。建物のグラフィックを活かした構図や色合いも気に入っていますが、何より機能に特化したこのプロダクトを、人がこういうスタイリングで合わせるとこう見えるんだという新鮮な発見もありました。
C:ショップとして少し極論的な事を言ってしまえば、このE5 eyevan が持つ魅力を知っていただく為には、その機能性を極めて重視しているブランドだからこそ、実際に着用しない限り、その本質的な魅力は伝わらないですね。どのブランドのメガネも基本は同じく掛けて初めて本来の魅力を認識出来ますが、E5は特にそう思います。今日改めてお話を聞いて、掛けた時のなんとも言えない”納得感”があるのは、中川さんのパーソナルな思考と辻褄が合っているからだと思いました。それを実現出来るプロダクトの完成度と相まって、腑に落ちるような感覚が大いにあります。
中川:ありがとうございます。突き詰めていくと、このE5はアイウェアとして当たり前で普通の事を追求しているので、とても難しい分野でした。自分としては物つくりをする時、そのカテゴリーの中でも一番良いと思えなければ出すべきじゃないなと思っていましたし、「道具としてのアイウェア」という分野でそれを実現するのはとても難しかったです。美しいとか、格好良いとかは、自分自身の価値観のみだから問題はないけれど、E5でやろうとした事は、世の中にある従来のものよりも掛けやすいとか、調整しやすい、壊れにくいなど、数字に表れたり答えが絞られているような分野なので、実現できて良かったです。
C:恵比寿にて先行発売期間中に掛けていただいたお客様にもとても好評でした。また12月の一般発売も楽しみにしています。最後に、これからのE5 eyevanで考えていることなどあればお聞かせください。
中川:体・顔の形態のことなどは、急激に進化することはないですが、メガネを掛ける方にとって、機能的に必要な形状や構造などはまだ埋められていないゾーンがあると感じているので、そこは半歩先を見ながら取り組んでいければと思っています。
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中川氏が新たに発表した【E5 eyevan】のファーストコレクションが2021年12月4日(土)より一般発売開始。ぜひ一度取扱い店舗にてお試しください。
2021年12月現在の取扱店