INTERVIEW | MASAHIROMARUYAMA
フリーのアイウェアデザイナー丸山正宏氏が、2011年に立ち上げた〈マサヒロマルヤマ〉。「unfinished art(未完成のアート作品)」というブランドコンセプトを軸に、これまで1stコレクションの”dessin””から始まり、最新コレクション”kintsugi”に至るまで、毎シーズンコンセプチュアルなテーマを掲げ、世界中のファンを魅了するコレクションを発表し続けている。
今回は最新作”kintsugi”による2度目のSILMO D’OR(シルモドール)グランプリ受賞を記念して、デザイナーの丸山氏にインタビューを敢行。【MASHIROMARUYAMA】のこれまでとこれから。その一部をお届けします。
*About SILMO D’OR
「”デザイン”を評価してもらう事は叶えたかった目標のひとつ」
Continuer(以下「C」)
2011年のブランドスタートからコンティニュエで取扱いをさせていただきながらも、こういったケースでお話を伺うのは初めてですね。改めて、2022年のシルモドール受賞おめでとうございます。
丸山 正宏さん(以下「丸山」)
ありがとうございます。シルモドールに関しては、アイウェアのデザインを志した時、そして自身のブランドをスタートさせる時に、この賞を受賞したいという想いを、一番の大きな目標としていたので、それが達成、しかも2度も評価してもらえた事はとても光栄な事ですね。
C : 前回(2020年 「メガネ部門」”monocle”)と今回(2022年「サングラス部門」*”kintsugi”)で2度受賞されていますが、丸山さんの中で感じ方の違いなどありますか?
丸山:前回の〈monocle〉では、どちらかというとメガネの“作り”の部分で発想そのものや、構造的なユニークさを評価してもらっての受賞だと感じていました。技術力やクラフトマンシップの部分においては元々、日本ブランドの評価は高いですし、それはそれでとても名誉な事で嬉しかったのですが、2度目の今回”kintsugi”は、言うなればファッション的なコンテクストにある総合的な”デザイン”自体を評価してもらえたと感じています。正直、その他ノミネートされていた、各国ブランドさんの派手さが強調されたデザインの中だと”渋め”であったこのプロダクトが評価してもらえたのは、本当に嬉しかった。複雑ではなく、シンプルさの中にある”デザイン性”というのは、アイウェアデザイナーとして一番成し遂げたかった事でした。
C : 素晴らしいですね。このkintsugiコレクションも、ブランド初期から変わらずに表現されている、手書きのラインによる際立つシェイプの美しさ、金継ぎを表した不規則なラインから感じ取れるどこか儚げで繊細なムード、とても素敵です。
丸山:”金継ぎ”から感じ取れる日本的な侘び寂びの部分を、自分なりにファッション的解釈を加えつつ、日用品としてうまく纏まるように表現出来たと思います。それを世界的なアイウェアデザインの基準で評価してもらえて良かったです。
C : 丸山さんにとって、シルモドールのグランプリを受賞するという事がどのような意味なのか、お話を聞いて改めて感じる事が出来ました。
C : では少しお話しの中にも出てきました、”日用品としての眼鏡”という部分に関してお伺いします。今回のKintsugiコレクションに限らず、【MASAHIROMARUYAMA】のプロダクトは、店舗でお客様から、「デザイン性は強いけど、実際に掛けると意外と馴染むね」というお声をいただく事が多いのですが、その部分に関しては、デザインする上でどのようにアプローチされているのでしょうか?
丸山:その年のテーマを表現する際、最初に取り組む試作の段階では、どのプロダクトも”日用品の中で愛用出来る眼鏡”としては、ちょっとやりすぎかな? と感じる事が多いです。大体それをもう少し馴染ませる方向に持っていく作業はしますが、実は特段すべてのモデルに関してその馴染ませ方を意識してデザインしているという事でもなく、ブランド全体として見たときには馴染まないモノがあって良いなという思いでコレクションを製作していて。
あとは、ブランド全体のコレクションをピラミッド式に見た時に、出来れば<逆三角形>にしていきたいなという思いは、設立当初からありました。上(多数)が馴染みよりも面白いデザインを感じられるもの。下が(少数)がベーシックめで馴染みやすいもの。
C : なるほど。コレクションの中で、顔に馴染みやすいもの、デザイン性が強く、馴染ませ方が難しいもの、その両方がある事で表現に幅を持たせているイメージでしょうか。確かにひとつのテーマの中でそれぞれのモデルを見てみてもそのグラデーションが存在していますね。
丸山:そうですね。ただその中でもこれ以上やっちゃうと違和感が強すぎる眼鏡になってしまうという部分においては、そうはならないようにデザインする上で気をつけています。違和感を正義とはしていないというか。ただ一方で、多少の違和感が物の良さや奥行きにつながる事もあると思うので、そこはバランスですかね。
C : そのようなイメージでコレクション全体を見てみるのも、また奥深くブランドの魅力が感じられて面白いですね。
「自作のシルバー製メガネから始まったストーリー」
C : 話は前後してしまうのですが、丸山さんがアイウェアをデザインすることになったきっかけや、その後のブランドの成り立ちまでを簡単にですが、改めてお聞かせいただければと思います。
丸山:思い返せば、最初はデザイン科に通っていた学生の頃に、シルバーのアクセサリーなどを自作していて、目も悪かったのでメガネも自分で作って見ようと軽い気持ちで製作したのが始まりだったような気がします。20歳くらいの時ですかね。学校ではデザイン科を専攻していたのですが、どちらかというと自分の手を動かして作っていくことに夢中だった時期でした。その時の先生に勧められて、福井県の眼鏡協会が主催しているメガネのコンペに出したんですが、そこで銅賞をいただいたのは良い思い出です。
C : 最初の作品ですでに賞を受賞されたんですね。すごい。その後、卒業した後はすぐに眼鏡の業界に入られたんですか?
丸山:そうですね。とあるきっかけで眼鏡のOEM製作などを行なっている大きな会社に就職し、改めて眼鏡のデザインというものを一から学ばせてもらいました。そこはインポート、ドメスティック問わず、ファッションのコレクションブランドなどのアイウェア製作をデザインから請け負う会社だったので、とても良い経験をさせてもらいましたね。
それと今にして思えば、前に勤めていた会社は毎年シルモ(パリ)やミド(ミラノ)の展示会にも出展していて、当時から現場に行けたので、それも貴重な経験でした。海外、ここではヨーロッパ中心ですが、そこで受け入れられるデザインの間口の広さも感じたし、日本国内だけではない、市場の大きさも感じられたので、多少なりとも、クラシックとも違うコンセプチュアルな眼鏡を受け入れてくれるような土壌があるという感覚を持てたのは収穫でした。そこに向けてなら、面白いプロダクトを作っても、マーケットが広ければ一が十になるというか、可能性を大いに感じましたね。
C : その時から海外のアイエア市場を体感できたのは丸山さんにとって大きな出来事ですね。あと、当時の華やかなファッションシーンにおけるアイウェアデザインというのを知っているというのも、現在の【MASAHIROMARUYAMA】に繋がっていそうですよね。
丸山:はい。特に規模感の大きいファッションブランドとの取り組めに関しても、ただのライセンスの眼鏡を作るという感じではなく、ダイレクトにブランドの担当者と打ち合わせを重ねながら、デザインを起こしていくという流れで仕事をさせてもらいました。パリのブランドであればパリまで行ってブランドのプロダクトデザイナーと打ち合わせをしたり。大きな会社が何をやっているのかというのも垣間見れて、今の物作りに活きているなと感じます。
「線で描く」
C : そういった会社組織内でのお仕事をされていく中で、アイウェアをデザインするという行為についてはどう感じられていましたか?
丸山:デザインという行為に関われる仕事が出来ることには、やはりやり甲斐がありました。また、特にちょうど働き始めの頃はアイウェアデザインの手法も手書きの時代から、PC(CAD)を使う移行時期だったので、両方とも好きな自分にとっては楽しんでやれる作業で理想的な環境でしたね。
C : 「手書き」というキーワードが出てきたので、無理やりこじ付けるわけではないのですが、今の手書きのライン(ハンドスケッチ)をベースとしている【MASAHIROMARUYAMA】のプロダクトに通じるものを感じました。ちょっと強引ですか? 笑
丸山:いえいえ。笑 確かにアイウェアデザインをPC主体で行なっていく時代の流れの中で、もう少し違った面白みというのを探ってみたかったという思いは徐々に膨らんでいきました。わかりやすい”データ”のように完全でブレがないもの以外で、もっと自由な部分を作れたら面白いんではないかと。
C : なるほど。少し今の【MASAHIROMARUYAMA】が表現しているデザインの輪郭が見えてきました。その中でもブランドが最初から続けている「左右非対称」の造形であったり、「不完全さの中にある美しさ」というコンセプトに関しては、眼鏡デザインの仕事を積み重ねていって徐々に出来上がっていったものなのか、元々丸山さんの中にあったものなのかだと、どちらの感覚でしょう?
丸山:そこはこれまでの色々な体験が今の眼鏡作りに活きているなと思うので一概には言い切れないのですが、それでいうと、プロダクトデザインの勉強をしていくのと並行して、もうひとつ興味のあった「ファッションイラスト」という分野を学んだ影響は色濃いなと思います。簡単に説明すると、デザイナーが洋服のデザインを考える際に描くイラストですね。デザインする事を仕事にしようと思った時に、一番自分に足りてなかったデッサンを描く事やイラストを描くことをしたいと思い、セツ・モードセミナー通い始めました。
そこの教えのひとつでもある、従来のデッサンで重要視されるような陰影をつけて描くスケッチではなく、「線」そのもので描くことによって、体の柔らかさや服の質感を描いていくというその考え方が好きで。線の面白さをより知れて、それらの考え方をプロダクト作りに反映出来たら面白そうという考えのベースは、その時出来た気がします。陰影をつけなくて良いなら、よりシンプルな考え方で物事が切り取れるんだなと。僕はバスキアやデイヴィット・ホックニーなどの作品からも「線」の格好良さを感じます。
C :それらの考え方をベースに、テーマを作り、具現化しているのでプロダクトにオリジナルティが宿るんですね。納得です。
「物作りの仕方を改めて考え直すタイミング」
C : では、MASAHIROMARUYAMAが毎シーズン打ち出すコンセプチュアルな「テーマ」についても少しお話をお伺いさせてください。
丸山:まずは前提として、世界のマーケットをターゲットにしているので、世界共通で解ってもらいやすいテーマを掲げるのを心がけていますね。その中でこれまで自分がインプットしてきたイメージのストックはたくさんあるですが、いざ引き出しから出してみると、うまくハマるものとはまらないモノがあるんです。それをうまく振り分け作業をしていきながら、その年一番自分が面白いと思うものを選んでいます。
C : 確かに振り返ってみると、どのテーマもテキストで見れば、意味自体はわかりやすく直感で捉えやすいですね。それがどうプロダクトに落とし込まれているのかは別として。
”dessin”、”collage”、”cut”、”2side”、”straight”、”broken”、”twist”、”erase”、”doodle”、”monocle”、”sculpt”、”kintsugi” ・・・
丸山:ただ、ブランドスタートから10年以上経ち、今までとは違った新しい”カタチ”での物作りというのを意識し始めています。毎年新しいコンセプトで工場さんと物作りに取り組んで来ましたが、近年の世の中の状況変化などで、納期が遅れてしまったり、その他解決しなくてはいけない事も多くなってきたので、そろそろ新しい関わり方をしないとお互いにパンクしてしまうかも、と感じるようになりました。また、そういった受け身の感覚だけではなく、ブランドとしてより骨太なブランドとなれるように、新しい考え方を取り入れた物作りを考えなければいけない時期に来ているように思います。
C : それは必ず新しいテーマでコレクションを発表するというサイクルではなく?
丸山:そうですね。今になって思うのは、これまでやってきた中にもまだやり残した事があって、最近はそれを春の展示会で消化してきた部分はあるのですが、やはりやりきれていないというか、まだまだやりたい事っていっぱいあるなと。これまで発表してきたひとつのテーマをより中身の濃い充実したものにしていきたい。そのようなアプローチも新しいテーマ作りとは別に取り組んで行きたいですね。同じテーマだけどもっと大胆な解釈や造形を取り入れるなど。
C : それは良いですね。個人的にも以前発表されてきたテーマを、もっと掘り下げていただけるのはても楽しみです。それによって同じテーマのアイウェアをお持ちの方にも、より深くブランドを楽しんでもらえそうですね。
丸山:はい。今後のブランドの方向性に関しては、そのような事も考えつつ、引続き自分自身の感性には身を任せて、自然体で表現していければ良いのかなと思っています。
C : また今回Continuer(恵比寿本店)の20周年記念として製作していただいた別注型「MM-C001」についても、その「既存モデルの掘り下げ」に近いカタチという印象ですね。ブランドの定番セルフレーム「MM-0026」の1st Collection” dessin”をコンビネーション仕様にアレンジしていただきましたが、再度デザインしていただく上で感じられた事や、製品の上がりの印象など、改めてお聞き出来たら嬉しいです。
丸山:とても良い試みだったと思います。僕的には”dessin”の進化版としてイメージを膨らませてデザインを組み立て、そこに、左右異なるディティールをブランドらしく表現する為に”2side”的な発想をプラスしました。基本的には「MM-0026」のスタイルは崩さずに、チタンとのコンビネーションにする事によって、厚みの強弱が生まれ、特にテンプルも細くすっきりとした印象になりましたね。全体として新鮮に感じるプロダクトになったと思います。またサイズ感程良いので男女共に、たくさんの方に掛けていただきやすそうです。
C : 別注色などはこれまでも数回製作いただいていますが、初の「別注型」が20周年の節目で実現出来て嬉しいです。ありがとうございました。
「先輩たちから学んだ良い経験や知識を他者に共有していきたい」
C : それでは最後のセクション。今後丸山さんが描くヴィジョンや、今現在感じていることなど、お話出来る範囲で何かあればお聞かせください。
丸山:そうですね。最近芽生えたというか、改めて意識したのは、自分自身の知識や経験を必要としている人に伝えていきたいという事です。自分がブランドを立ち上げようと思ったときに、とてもお世話になった業界の先輩方が多くいて、周りに頼れる大人がいたんですよね。福井にいる製造に携わるプロフェッショナルや、東京だととある眼鏡屋さんの社長さんや社員さんなど。本当に色々な事を教えてくれたなと。今度は自分自身がそういう役割を少しはしないといけないと感じるようになりました。「なんかあそこのブランドの人は何でも相談できるらしいよ」みたいな。笑
そんな方が居たら、気軽にコンタクトをくれたら良いなと思っていますし、ひとつの窓口のような存在になれたらと思いますね。
C : 素敵ですね。ブランドを立ち上げられて、経験と実績も積み重ね、そのような思いが丸山さんに出てきたのですね。物作りがしたい、ブランドを立ち上げてみたいなど、下の世代に限らずそういった思いがある方に、知識や経験を伝えていける存在が居るというのはとても心強いですよ。もしこの記事を読んでいただいた方の中で、何か相談したい方がいたら、ご本人に許可は取れたのでぜひ丸山さん宛にご相談ください。
丸山:本当お気軽に。僕が知っている限り、答えられる範囲であれば何でもお話できる事があると思うので、漠然とでも眼鏡業界に携わりたいと思ってくれる方などいたら、ぜひご連絡ください。
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C : 今日はありがとうございました。まずは最新作”kintsugi”の納品も控えていますし、これからもContinuer Inc.各店でブランドの魅力を少しでもアイウェアユーザーの皆様にお伝えしていければと思います。
丸山:こちらこそありがとうございました。まずは店舗で気になったモデルなど試着していただいて、どんなカタチでも僕たち作り手の思いが少しでも伝わったら良いですね。
MASAHIROMARUYAMAのような、「ART / アート」「FASHION / ファッション」「DAIRY NECESSITIES / 日用品」のバランスを高い水準で実現させているブランドはとても貴重で稀有なブランドであると思います。今回は丸山さんが考えるデザイン美学的な部分はもちろん、今感じている事やこれから実現したいことの一部を改めて聞くことが出来、ショップとしても良い機会となりました。
MASAHIROMARUYAMAのプロダクトはContinuer(恵比寿本店)、CONTINUER NNIHOMBASHI(日本橋)、The PARKSIDE ROOM(吉祥寺)で取扱っております。
また来年1月23日(金)からコンティニュエ日本橋では、【MASAHIROMARUYAMA FAIR 2023“Kintsugi”】を開催。受賞モデルを含む最新コレクション“Kintsugi”をはじめ、同ブランドが過去に発表した名作の数々が一堂に会し、人気の高いモデルも一挙にご覧いただける機会となります。ぜひ今後も引続き【MASAHIROMARUYAMA】にご注目ください。
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