バウハウスの普遍性と多面性
今年開校から100周年を迎えた「バウハウス」について。デザインに興味、さらにはデザインを職業とされている方などには身近にある言葉、または考え方だと思います。今回は日頃からお世話になっている恵比寿のブックショップ「POST」のディレクター中島佑介氏にご登場いただき、改めてバウハウスの魅力などを、氏の視点からご紹介いただいきました。
– Universality and Diversity in BAUHAUS –
恵比寿で書店を始める前から興味のあった国が二つある。ひとつはオランダで、訪れるたびに見知らぬアートブック やデザインに出会える国だ。もうひとつがドイツで、前衛美術や写真、デザイン、出版…と多彩な文化のある国だが、最初に興味を持ったのは「バウハウス」のあった国だから、というのが一番の理由だった。 バウハウスという言葉を始めて聞いたのは学生の頃、美術書店でアルバイトをしている時だ。いったい何語なのかも、何を意味するのかも分からない単語の響きに惹かれ、発音を覚えただけで知識が付いた気がした。虚ろにも知的好奇心が満たされたことに満足しつつ、この言葉を気に留めることになったが、いったん意識し始めると、好きだったものや惹かれたものが「バウハウス」に収斂されていくのと同時に、派生して様々なことに興味が広がるきっかけにもなっていく。結果的にこの時期の関心事が、価値観の基礎を築いてくれた。
バウハウスは1919年にドイツのワイマールで開校した教育機関で、今年はちょうど開校100周年を迎える。機械化によって変化した工業の体系と、手工芸に根付いていた伝統的な美意識、この二つを融合させることをスローガンとして設立された。この学校が画期的だったのは、技術だけでなく芸術や文化も同列に学ぶカリキュラムが設け、世界に先駆けてデザイン教育が行われた点だろう。当時としてはユニークな教育方法が功を奏して毎年優秀な生徒たちを輩出していたが、残念ながら不安定な社会情勢の影響を受け、わずか14年で閉校に追いやられてしまった。バウハウスの功績は閉校後に時を経ずして評価され、1938年にはニューヨーク近代美術館で展覧会も開催されている。1996年には世界遺産に登録、現在では教師陣たちや学生たち、思想を継承したデザイナーたちによる作品群が、 世界中の美術館に収蔵されたり、復刻されたりと今でも目にすることができる。
その中でも*マックス・ビルによるユンハンス社の時計は、デザインされた当時から変わることなく今日でも製造されつづけているプロダクトだ。どの作品も古びることなく今でも魅力的だが、バウハウスには普遍的というだけでは言い表すことのできない訴求力が秘められているように思う。
今年、世界各国でバウハウス100周年を記念する関連イベントや出版物の刊行が相次いでいるが、その多くは過去の遺産を評価する懐古的な視点ではなく、現代にとっての意義を再発見し、思想をアップデートしているように見受けられる。バウハウスの思想が時代に合わせてアップデートさていれるのは今年が特別な訳ではなく、1930年代にはアメリカで「*ブラックマウンテンカレッジ」や「*ニューバウハウス」、1950年代にはスイスで「*ウルム造形大学」が開校されたりと、国も時代も横断しつつ、形を変えながら継承されてきた。バウハウスの訴求力のルーツは、普遍性を持ちつつ、時代に合わせた解釈によって常に新しい思想を生み出す源泉にもなり得るからではないだろうか。
普遍性と自由な解釈を許容できる多面性、この二つを兼ね備えている点が、バウハウスが類を見ない唯一の存在として評価されている理由なのだろう。