About YUICHI TOYAMA:5
掛け手の「普遍」を目指したプロジェクト。そのひとつのカタチ。
Short Essay: Yuichi Toyama
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ABOUT YUICHI TOYAMA:5
ドメスティックブランド<YUICHI TOYAMA.>より2021年にローンチされたハイエンドライン【YUICHI TOYAMA:5】。デザイナーである外山雄一氏とこれまでアイウェア作りを共にしてきた福井県鯖江市の5人の職人とが、従来とは異なるアプローチで普遍的なプロダクトを目指し、デザイン面と機能面、それぞれの視座からアイデアを結晶化。デザイナー外山氏が描く造形的な美しさに加え、ストレスのない装用感と、掛け手自身でのアイウェアメンテンスを実現するために、ネジ一つから妥協せず、フレームを構成する全てのパーツにオリジナルデザインを採用。掛け手への「普遍」を探し求めた外山氏と職人達のアイウェアに対する熱い想いが、高い次元でのものづくりを実現させ、高品質かつ新しいコンセプトのコレクションを生んでいる。
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今回はいくつかのパラグラフから見えてくる【YUICHI TOYAMA:5】が実現したかった思いや、その魅力をデザイナー外山氏の話から探る。
Paragraph 1.
デザイナーのパーソナルな側面
生まれは東京・浅草の柳橋。祖母が芸者さんの置屋をやっていて、3〜4歳くらいまでそこで育てられたので、自分の魂はその時代、そこのお姉さまたちに囲まれて、楽しくいじってもらって形成されていると思う。(笑) 今、人とのコミュニケーションが好きだと言えるのはその環境が育んでくれたのではと感じます。その後は世田谷の用賀に引っ越して、そのままその場所が地元になって今に至る。趣味という趣味は特に思い浮かばず、今やっている仕事自体が、人との出会いや、興味の湧く事象に地続きとなっているので、仕事そのものが趣味の延長のような感覚。まあ強いて挙げるとすると、国内外、色々な知らない場所に行って、自分にとって刺激のあるモノを見たり体感したり、またそこにいる人たちと話しをするだけでも好きなので、旅は自分を整える要素のひとつかなと思う。
あと自分のバックグラウンドとして思い浮かぶカルチャーとしては音楽。10代からずっとHIP HOPを中心としたカルチャーに惹かれ、何かクリエイティブな思考回路で物事を考えるときには、その影響を色濃く感じます。特にサンプリングという文化に対する考え方などは、HIP HOPから学んで、今の自分の中でも活かせている感覚がある。
Paragraph 2.
YUICHI TOYAMA:5の誕生
これまでの長いアイウェアデザインのキャリアで、自分自身も歳を重ねる中、トレンドとは別のベクトルで、本質的な“普遍”の部分に関して、もっと真剣に取り組んでいきたいと思い始めた。それは決して自分の普遍ではなく、相手側(着用者)の普遍を考えること。それがどういうことかと紐解いていくと、どちらかといえばシェイプ云々よりも”行為の部分”をデザインする事だった。もちろん大前提として、それこそ造形的な部分においても普遍性のある美しさを追求していますが、この【YUICHI TOYAMA:5】では、作りの優れたアイウェアをメンテナンスしながら大事に使っていくという「行為」を、もっと個人でも出来るような構造にしたいと思いプロジェクトがスタート。けどなかなかパーツの構造まで踏み込むと、自分一人ではその実現は難しく。そんな時、これまでのキャリアでお世話になった信頼を置く職人の方に色々と相談する中、このコレクションが完成する道筋が見えてきました。
もちろん完成するまでにはかなりたくさんの方々に協力してもらって実現に至ったのだけど、今回はその中の主要な5人の職人さん(試作、部品、金型、塗装、仕上げのプロフェッショナル)との共作というカタチを取らせてもらい、完成したのが【YUICHI TOYAMA:5】。このコレクションはそんな個別の技術や感性を、僕自身が描く普遍的なシェイプやアイデアと繋ぎ合わせ、MIXするようなイメージで出来たように思う。
Paragraph 3.
YUICHI TOYAMA:5のディティール
見た目のシェイプや着用時の機能面にもこだわりはありますが、今回はその中でもディティールの部分の話を少しだけ。デザインする上ですごく大事にしている部分に「色」と共に、”素材感”の追求があり、素材の新しい見え方の実験というのは、YUICHI TOYAMA:5に限らず、ブランドのオリジナリティを表現する上でこれまでずっと行ってきたこと。
例えばもともとガラスのような”透明感”のある素材が好きで、その時々の角度や光の反射によって感じ方が微妙に変化するような、そんな様子に惹かれる事が多い。このインナーメタルのディティールも、通常オールアセテートでは起こり得ないランダムな反射や、色の奥行きが表現出来た成功例のひとつ。特にYUICHI TOYAMA:5の最新コレクションでは、テレビジョンカットのような元々の立体感と迫力を兼ね備えたディティールにプラスして、内側に走らせたメタルのインナーリムを装備することで、そのもののオリジナリティと共に、掛け手のパーソナリティが上品に浮き立つようなイメージで製作する事が出来ました。異素材を組み合わせることで、単純な色の違いという事にプラスα、例えば通常の4バリエーションのカラー展開のものでも、色同士の”距離”が離れて見え、提案に幅を持たせる事が出来るのも好きなところ。あと、装着性を高めるため、細かなラインを施した軽量のチタン製鼻パッドもこだわり抜いたポイントです。
Paragraph 4.
YUICHI TOYAMA:5の掛け手
自分自身、プロダクトの製作段階では、具体的な掛け手をイメージしてデザインする事はほぼないけれど、出来上がったプロダクトから、こんな方に着用してもらえたら素敵だろうなという想像は膨らむ。今回は頭にふと思い浮かんだ素敵なお二方に出演のお願いをしました。お一人目は、凛とした存在感が際立つナカムラ マリさん。ナカムラさんが手掛けるブランド「RIM.ARK」の女性らしさを引き出すデザインはとても美しく、また醸し出す静かでいて強いムードに惹かれる。そしてご本人のスタイリングもその人柄が表れていてとても魅力的な方。着用してもらったのは1st Collectionの「KYOTO」というシンプルの中に”抑揚”をうまく落とし込めたデザインのメタルフレーム。ナカムラさんのような”静と動”の均衡が取れた美しいスタイリングバランスの中に、このアイウェアを取り入れてもらえて光栄です。
お二人目はユニセックスブランド「YOKE」デザイナーの寺田さん。「YOKE」のミニマルでいて、かつ特徴的なバランスを表現する独自の世界観と、寺田さん自身の人柄やモノの捉え方、日本人ならではの奥ゆかしさがあるクリエーションに、気がつくと引き寄せられている。着用してもらっているのは2nd Collectionのアセテートモデル「DIABLO」のサングラスバージョン。デザインやディティールなどには西洋的な部分を色濃く反映させながらも、実直で精巧なもの作りの日本的な部分が良いバランスで交差し、存在感と装用感の両方を高精度で実現出来たモデル。
創造性あふれるお二方の日々に、少しでも寄り添えるプロダクトであれば嬉しいと思う。
Paragraph 5.
YUICHI TOYAMA:5の未来
少し抽象的な表現が多くなりますが、掛け手にとっての本質とは何かをしっかり感じ取って、そして実験していけるコレクションでありたいと思っている。今は作りの質、その高さをベースにしながら、メンテンスという観点を付加させて本質を求めたプロダクトにしているが、今後、アイウェアを掛ける方の本質的な“何か”の部分で、違った解釈やアプローチ方法が見つかれば、その分野にチャレンジしたい。その人にとっての「究極」や「普遍」というキーワードは、もちろん人それぞれの捉え方があるだろうし、”掛け手にとっての普遍”を考えるプロダクトを作っている以上、そこに寄り添っていけるコレクションをこれからも製作したい。ただ掛けると”ハッピー”になれるだけを本質的に求められる時代が来たのであれば、ただそれを追い求めたアイウェアを作っていきたい。ちょっと極端な例で言うと、そんな風に考えています。
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外山氏のお話から感じたこと。それはこのコレクションは、これまで積み重ねてきたクリエイティブのひとつの集大成のようでもあり、一方、本質的な普遍を求める過程にあるコレクションであると思いました。また人との繋がりやコミュニケーションを大事にする外山氏らしい発想から生まれたプロダクトであるとも感じます。YUICHI TOYAMA:5のコレクションは、現在Continuer|恵比寿本店のみで展開中。ぜひ店頭でご覧ください。
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