Think About ARCH OPTICAL
アーチ・オプティカルとは。
Continuer Inc.が2019年の春から展開しているオリジナルブランド、ARCH OPTICAL。アイウエアブランドは世の中にたくさんあるけれど、ARCH OPTICALが纏う空気感は独特です。そこには、なんとも言えない佇まいがある。“違和感”(いい意味で)とも言えるそれはどこから来るのか? かねてより聞きたかったことを、この場を借りて、代表の嶋崎さんに取材させてもらいました。(ライター行方)
(行方)
嶋崎さんにこうしてお話を伺えるのは、『CONTINUER NIHOMBASHI』オープンのインタビュー以来ですね。
(嶋崎)
そうですね。その節はありがとうございました。
(行方)
その時はARCH OPTICALはまだローンチ前でしたが、今はコレクションも充実。ブランドとしての輪郭がはっきりしています。
(嶋崎)
正式なローンチは2019年の春ですね。メタルフレームからスタートして、その後に18金のメタルフレームをリリース。12月にようやくアセテートフレームが完成しました。アセテートフレームは最初から走らせていたんですけどね。なかなか苦労した部分があり、デビューが遅れてしまったんです。
(行方)
ARCH OPTICALですが、簡単には形容し難い独特の佇まいがありますよね。今日はその辺のことを伺いたいのですが、まずは改めてコンセプトからお聞かせいただいても良いですか? ホームページの紹介文では『これからのスタンダード』と謳っていますが。
(嶋崎)
ARCH OPTICALには明文化されたコンセプトというのはないんです。『これからのスタンダード』というのも、いわゆる世界標準的な、統一規格のようなスタンダードということではなく、僕たちが目指すひとつの極みということですね。
(行方)
その目指す極みなんとも絶妙で(笑)。今日はもう少し具体的なところを伺いたいと思っているんです。
(嶋崎)
そうですよね(笑)。
(行方)
今までになかった雰囲気ではあるんですが、斬新とか超個性的とかそういうことではない。このムードってどうやって生まれているのかなって。
(嶋崎)
せっかく作るのですから新しいものを作りたいとは思っていましたが、とはいえ『今まで世の中にまったくなかったものを!』みたいな感覚はまったくないんです。他のブランドと比較してどうこう、っていうところはまったく意識していない。自意識が強すぎるのも他人軸が強すぎるのも好きじゃないので。そういった気負いみたいなものを一切排除したものづくりがしたかったんです。
(行方)
なるほど。
(嶋崎)
もともとは道具だったメガネですが、今はファッションとして、そしてプロダクトとして成熟されていますよね。その中で、本来は “製造上の都合” や“ある時代の金字塔的なプロダクト”の影響として付加されていたディテールが、デザインとして定着していたりします。メガネのデザインの常識というか、様式みたいなものですね。ARCH OPTICALではその様式を一度リセットできないかな、と思ったんです。その上で、新しい流れを作ってみれたらと。
(行方)
とても興味深いです。
(嶋崎)
ブランドはその存在意義を示すために、他のブランドとの差別化というところに意識が置かれたりします。もちろんそれは大事なことですし、僕らもそういった選択眼でお店に並べる商品をセレクトさせていただいている部分もあるのですが、僕たちがメガネを作るのであれば、差別化のための要素ありきで考えるのをあえてやめてみたらどうかな、と。そして、なるべくその源流というか、進化の起源の方から始めて、そこに少しだけ僕たちらしさを吹き込んで違ったベクトルの進化を試みてみる。そういったアプローチなんです。
(行方)
つまり、メガネの歴史における “文脈” みたいなものを意識的に排除した。
(嶋崎)
まさに。脈々と受け継がれてきた様式というものはもちろん大事です。僕たちもその重要性は理解していますが、そういったもののある種の頂点のようなものはContinuer Inc.でセレクトしていて十分ご紹介できている。それをまた僕たちがなぞる意味はないと思うんです。結局、似ちゃいますからね。
そういうものから少しでも違うものが生み出されたら良いなって素朴に思って、どういうアプローチがあるのかなと考えた時に、構造やシステムみたいなものから始めていくことを考えてみたんです。そうするといろんなデザインとか常識的な美意識のコンテクストからちょっとズレた物ができる。結果、新鮮味のある物ができないかなと。デザインそのものというより、ものづくりの考え方を考えたみたいなかんじですね。
(行方)
土台を設計し直したということですね。「今ここから新しいスタンダードは生まれるのか」という実験的な取り組みにも見えます。
(嶋崎)
系譜からズレた原型を作れば、そこから派生するものもまた新しくなる。決して特殊なものではありませんが、そもそもの成り立ちの違いから漂う新しさを表現しました。
(行方)
発想はわかりますが、それを具体的に形にするのはとても難しそうですね。
(嶋崎)
具体的なデザインはもちろんデザイナーさんにおこしてもらうのですが、やはりどうしても“美意識の癖”が入って、様式に沿ったものになる。優秀なデザイナーさんほど文脈を読む力も強いですが、なるべくそれを排除してもらいました。
具体的には、まずは要所のパーツを先に作ってしまい、それを極力抑揚なくシンプルにつなぐという作業をしました。今って、割となんでも自由にデザインできてしまうんですが、あえてパーツの形状を限定する、つまりデザイン上の制約を作ることで、“常識的な美意識”から離れるように設計しています。
(行方)
どこかのなにかっぽくないもの、という意識でしょうか。
(嶋崎)
そういう発想はあったかもしれません。〜っぽい、というよりも、〜ではないもの。「ここは違う」「これはいらない」を繰り返していらない部分を削り取っていった感じはあるかもしれません。
(行方)
シンプルなものであるように見えて、どこにでもあるものではない。文脈からあえて離れながら、新しいスタンダードを目指す。すごくハイコンテクストな感じがします。
(嶋崎)
そうかもしれませんね。純粋に素朴な時代に作った素朴なものじゃなく、既に情報が溢れる環境の中で目指した“なんでもなさ”だから。
とはいえ、お客様にそれをなんとしても感じていただきたいわけじゃないんです。単純に「シンプルでいいね」って思ってかけてもらうのも嬉しいし、「あえて抑制したおしゃれを楽しみたい」みたいな人にわかってもらっても嬉しい。
(行方)
ミニマルって言うのとも違いますもんね。
(嶋崎)
僕にとってはミニマルもある意味濃い味。僕がやりたいのは、じんわりした薄味なんです。
(行方)
「パーツから先にデザインをした」とおっしゃっていましたが、そのほかにデザインのこだわりはありますか?
(嶋崎)
プロダクト映えではなく、そのメガネをかけたときにどうかということに重きを置いています。半歩だけメガネの存在感が後ろにあって、かけた人の“らしさ”を引き立てる。主演俳優ではなく、名バイプレーヤーでもなく、例えば…劇団所属の良い俳優さんみたいな?(笑)。自己主張をなるべく抑えながら、かと言ってそこには絶対いて欲しい。そんな感覚です。
(行方)
なるほど(笑)。それはデザインにはどう具体的に落とし込んだんですか?
(嶋崎)
特に目の表情が出るように工夫しています。目の表情を変えるデザインは仮面性があってそれはそれで良いのですが、ARCH OPTICALの役割ではないなと。
(行方)
変身願望を叶えるものではない。
(嶋崎)
そう。かけてくれる人の素材の味をちゃんと引き立てたいんです。
(嶋崎)
あと、具体的なところで言うと、一番時間がかかったのが、アセテートフレームのメガネの1ピンカシメですね。大体このカシメって、2ピンとか3ピンなんです。1ピンのものもありますが、それは大抵の場合飾りでいられているだけ。僕はシンプルでありながらしっかりとしたモノが作りたかったので1ピンの本カシメを職人さんに依頼したのですが、最初はできないと言われてしまって…。でも、いろいろと試行錯誤をして、なんとか実現してもらいました。
また蝶番のサイズもできるだけ小さくしています。サイドから見た時に、できるだけ蝶番が見えないようにしたかったので。
端から見たら,えっ、そこ又直すの?みたいことが多いかも知れませんね(笑) メタルの方のパッドの色も何度も染め直して、少しだけ暖色の入ったグレーにしました。肌に対する程よい馴染みと程よい違和感を作り出したかったんですよね。
(行方)
本当だ。そう言われてみれば、どれもさりげなく個性を醸し出していますね。こういう細かな味付けの積み重ねも、この佇まいを支えているんですね。
そう言えばこのロゴも象徴的だなと思ったんです。これも嶋崎さんが考案されたんですか?
(嶋崎)
そうですね。僕の中に具体的なイメージがあったのですが、最終的には、いつもお世話になっているイラストレーターの竹田嘉文さんに色々なパターンを描き起こしていただいた中から決めました。遠目に見るとArchのA。上の部分は万華鏡を表していて、下の部分はアーチ橋を表している。万華鏡は偶然と感性。アーチ橋は必然と理性など相反するものの統合を示した図案ですね。
(行方)
手書きによる味わいもまた雰囲気を出していますね。メガネって本当にたくさんの選択肢があって、それぞれの差をどれだけユーザーが感じ取れるかだと思うんです。いいデザインというものは本当にたくさんありますが、ARCH OPTICALのようなユニークな“ストーリー”を持ったものは、実はそう多くない。それに、デザインは真似できてもストーリーは真似できない。他にはない価値を感じます。今後はどんな展開をしていく予定ですか?
(嶋崎)
ひとつの原型というか、土台みたいなものはできたので、ここから始まるいろんな派生を楽しんでいきたいと思っています。具体的なところで言うと、今は玉型が小ぶりなものが中心なので、少しサイズアップしたものも作ってみようと思っています。
(行方)
基本的には直営店だけでの販売ですか?
(嶋崎)
そうですね。顔の見える形で、新しい試みをされているようなショップさんに展開していただくような可能性はありますが、基本的には Continuerの直営店とECだけ。ゆっくりと育てていこうと思っています。
(行方)
今日はありがとうございました。今後の展開も楽しみにしています!
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