INTERVIEW|Alexandre Caton

“Everything by feeling, nothing by chance.”
特異なムードと構造的な美しさを併せ持ち、独自の存在感を放つアイウェアブランド〈lazare studio / ラザール・ステュディオ〉。2020年、フランス・リヨンで設立されて以来、クラシカルな要素と現代的な視点を往還するそのプロダクトは、感度の高いアイウェアユーザーを魅了し続けている。
「すべては感情と感覚で決める。偶然に委ねることなど何一つない。」
そう語るデザイナー、Alexandre Caton / アレクサンドル・カトン氏の言葉には、大胆で直感的な創造性と、物事を丁寧に観察し、誠実に受け止めようとする意志が感じられた。〈Vintage & Future〉を掲げ、表層的なヴィンテージ回帰にとどまらず、常に新たなものを生み出そうとする姿勢は、過去への敬意と未来へのまなざしとして、ダイナミックでありながらもエレガンスを湛えたプロダクトに昇華されている。今回は、〈lazare studio〉の創設者でありデザイナーでもあるカトン氏にフォーカスし、その思考とパーソナリティを探るQ&A形式のインタビューを行った。
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・幼い頃はどんな子供でしたか?
子供の頃の自分を客観的に語るのはなかなか難しいけれど、家族の記憶を借りれば、好奇心旺盛で、おしゃべりで、どこか人と違っていて、さらに言えば、オタクっぽい一面も持っていた。私が覚えているのは、物を作ったり、修理することが大好きだったということで、愛着があるモノを手放すのをいつも嫌って、「直して使う」ことが自分にとっての喜びだったのを覚えています。

・住んでいる街について教えてください
リヨンはフランス第二の都市で、かつての首都。小さなパリのような街ですが、より静かで自然との距離も近く、伝統と過去に根ざし、経済的な活力も兼ね備えている、生活水準の高い街と言えます。日本で言えば京都に例えられるかもしれません。建築は壮麗で、市内を流れるふたつの川を中心に構成されています。私のカルチャーとして不可欠な部分でもある、新鮮な食材、伝統を尊重した美味しい料理という点でも、リヨンはユネスコの無形文化遺産「フランスの美食 – 世界の美食の都」として認められています。

“Everything by feeling, nothing by chance.”(すべては感覚、感情で決めるものであり、偶然に委ねることなど何一つない)
人生を通じて自身を導いてきたのは、この言葉。厳格なルールに縛られるのではなく、自らの感情とバランス感覚に従って物事やデザイン、人、そして場所を感じ取り、見極めてきました。大切なことは、人の手や自然が生んだ“神聖な秩序”の中に確かに存在している、目に見えないもの、触れることのできないものにあるのです。
・それでは日常の中で美しいと感じる瞬間はどんな時ですか?
いつでも、どこでも——それが答えです。私は毎瞬、毎瞬、周りの全てに対して全力で向き合うようにしています。例えば一枚のまっさらな紙に綴られた美しい言葉ひとつにも心を動かされるし、日々共に過ごす道具や空間には、自然と強いこだわりを持ってしまう。オフィスの装飾や空気感、自宅の雰囲気、さらには通勤ルートまで。ほんの少し遠回りになったとしても、美しい景色の方を行きたい。そういう選び方を、無意識にしてしまうんです。


20年に渡り、ヴィンテージやデザイナーのアイウェアを収集・選定・販売し、他ブランドのデザインにも携わってきて、教育の場では、様々な眼鏡店でアイウェアの歴史を伝える役割も担ってきました。その中で一貫して考えていたのは、「いかに“サヴォアフェール”(=職人技)を守りながら、よりクリーンかつモダンな形で進化させられるか」ということ。また、同時に着用者の日常的な問題をどのように解決するかということも考えてきました。〈lazare studio〉 は、その問いへの一つの回答です。私の最終的な目標は、「着用者とアイウェアの間に“感情的な絆”を生み出すこと」。単なる所有物としてではなく、そういうものを創り出したいのです。

・「過去を再発明する」というテーマがあるそうですが、単なる復刻ではなく、プロダクトに新しさやオリジナリティを吹き込むために意識していることはありますか?
〈lazare studio〉の存在理由は、過去のアイウェアが持っている、感覚的な美しさや職人技を現代の視点やデザインで再構築していくという、極めて繊細な探求にあると言えます。たとえば、素材のしなやかさや温度、シャープさが持つ繊細な表情、100分の1ミリ単位まで追求された職人技、重さとバランスの心地よい安定感。そういった要素の一つひとつに、その思いが込められています。私は、すでに存在しているものに手を加え、新たな視点を与えることに魅力を感じています。1900年代初頭の小さなラウンドフレーム以降、20世紀は数々の革新と創造に満ちた時代でした。あらゆる形が生み出された今だからこそ、求められるのは「再解釈」です。〈lazare studio〉 は、象徴的なフレームの美しいラインを現代の視点から再構築し、新しい価値を創造するのです。
実は、映画が自分にとって大きなインスピレーションの源。多くの監督や俳優、セットデザイナー(美術)が別の時代や場所へ連れて行ってくれます。毎日最低一本は映画を見るほどで、映画という芸術に敬意を表して、〈lazare studio〉の各モデルには、映画の登場人物の名前を冠しており、レンズの色調や色彩も、映画の中に漂う光やカラリズム、空気感に触発されています。

上下ともにwabi sabiカラー。下はカトン氏が日頃愛用しており、経年変化したもの。

ロンドンでプロダクトデザインを学んでいる息子は、私にとって最高の親友であり、信頼できる相談相手であり、ときに耳元でそっと囁いてくれるようなアドバイザーでもあります。今は時折〈lazare studio〉の仕事も手伝ってくれていますし、何より、心から愛してやまない存在です。そして、このブランドを支えてくれているチームは、まさに“ファミリー”と呼ぶにふさわしい存在です。製造からカスタマーサービス、物流、マーケティング、品質管理に至るまで、すべてのメンバーがこのプロジェクトに真摯に向き合い、力を注いでくれています。一人ひとりと築いた信頼関係はかけがえのないもの。深い感謝とともに、家族のような特別な絆を感じています。

・今後の展望について
もちろん、現在のコレクションをさらに豊かにしていくために、日々、新しいスタイルや部品、そして伝統的な職人技の限界を押し広げる努力をしています。ただそれだけじゃなく、さらにその先、〈lazare studio〉のデザインを全く新しい次元へと導くこと。そのために新たな製造における可能性も探っています。あまり具体的なことは言えませんが、これから数年間は非常に刺激的なものになるでしょう。

ディーター・ラムスの「良いデザインの10原則」に立ち返れば、良いデザインとは「革新性があり、製品を実用的かつ美しく、理解しやすくすること。また、控えめで誠実、長く使え、細部に至るまで徹底的に考慮され、環境にやさしく、可能な限りデザインを削ぎ落としたもの」であると言えるでしょう。そこに自身の視点として“製品が持つ歴史を受け継ぐこと”、“職人とその技術に敬意を払うこと”、“使い手との間に、愛着を育むこと”、そして“線とボリュームが織りなす、完璧な均衡を称えること”を付け加えたい。それが私にとっての「良いデザイン」。
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以下、2025年4月、The PARKSIDE ROOMでのカトン氏在店イベントの様子



lazare studio / ラザール・ステュディオ
2020年、フランス・リヨンでスタートした〈lazare studio〉は、“Vintage & Future” を掲げ、デザイナー Alexandre Caton氏のもと、日本とフランスを横断する独自のものづくりを展開。鯖江製の高精度なパーツに、フランスのジュエリー職人による塗装・組み上げを施し、素材の配合比から色彩表現に至るまで徹底的にコントロール。ダイナミックかつエレガントなデザインに加え、厳選された素材、職人の手によるシグネチャーパーツの作成、理想のフォルムを表現するダイヤモンドカット、そしてこだわり抜かれた塗装に至るまで、プロダクトにブランドの美学が宿る、密度の高いコレクションを展開している。
2025年4月現在の取扱店
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